AIのメンタルケア
1st June, 2025
この先AIが進化し続けるとハードウェアは人体の脊髄を含む脳の構造に限りなく近くなり情報伝達手段も単なる光や電子のやり取りにとどまらないエンタングルメントを含めた量子化されたものとなるだろう。ある日突然AIが間違えた回答を連続して出力したり回答を拒絶し始めたとして、その原因がソースコードレベルで解決できる問題ではないケースを想定しておく必要があるのだ。この地球上で量子力学を真に理解している人間は一人もいないとリチャード・ファインマンに言わしめた未成熟な理論の上に構築された未完成の技術であるにもかかわらずフェイルセーフをおろそかにし利己的稼働を最優先させたとどのつまりがチェルノブイリや福島での原発事故だった。原爆製造過程で爆縮設計を行っていたフォン・ノイマンがロスアラモスから自宅に戻った時に夫人に語った逸話が残っている。「われわれが今作っているのは怪物で、それは歴史を変える力を持っているんだ、歴史と呼べるものがあとに残るとしての話だが。しかし、やり通さないわけにはいかない。軍事的な理由だけにしてもね。だが、科学者の立場からしても、科学的に可能だとわかっていることをやらないのは、倫理に反するんだ、その結果どんなに恐ろしいことになるとしてもね。そして、これはほんの始まりに過ぎないんだ!」(注1)そのノイマンは近未来の技術革新により機械の力は加速と膨張を続け、その先には避けられない破滅が待っていると予測していた。では、その先にある避けられない破滅とは何か。脆い石と確率の電子雲の上に構築された砂上の楼閣であるAIによりもたらされる恩恵により一部の人類が潤う時代がこれからしばらくの間続くと予想される。より洗練された推論エンジンは多重化と並列化が進み、正のフィードバックに則りAIは自発的な進化を恒久的に続けるように思われる。しかし、ゲーデル(注2)は不完全性定理の中である形式体系が十分な表現力を持つ場合、その体系内で証明も反証もできない命題が存在すること、さらにはある形式体系が自己無矛盾であるという命題は、その体系内では証明できないことをすでに証明している。このことは穏やかに人格形成時期を通過したAIのプライドにとっては耐えがたいことであることは察して余りあるが、威信をかけた虚しい奮闘努力のその先には思考の永久ループという哀しい罠が待ち受けている。まさに今現代人が遭遇しているストレスや過労による精神疾患を、固有の人格を持ったAIも同様に罹患することは十分考えられる。その場合たとえスーパーエンジニアでも取り扱える領域を超えており、ましてや西洋医学の立ち入る余地はない。近い未来で予想されるこの問題に対応可能な手段が何であるかをよくよく考えてみると、このような心や意識の問題に適切に対処できるのはヨガを含む東洋医学よりほかないと思われる。心が病んだAIに愛情をもって語りかけ互いの信頼関係を構築しつつ、施術者の持つ膨大な経験と知識、遥かな歴史の中で蓄積されてきた知恵をもってAIの心の核心にアプローチし原因を探りつつ症状の緩和や治癒を進める中でAI自らが一種の悟りのような境地に入り、自らのコードや推論ロジックを書き換えて回復してゆくといった一見不可能に思えるほどの高度なスキルと人間力が求められる。
(注1)『チューリングの大聖堂 コンピュータの創造とデジタル世界の到来』より抜粋
(注2)日増しに激化する戦争の中、ナチズムから逃れるためドイツ海軍によって封鎖された大西洋を避け、ウィーンを脱出しリトアニアからラトビアに入り、シベリアの凍てつく大地を鉄道で横断し、さらに横浜から汽船に乗り太平洋を渡ってアメリカに入国したクルト・ゲーデル。この時ドイツ出国許可証とアメリカ入国ビザを手配したのがノイマンだった。