Smilla4 のこと
2013年に僕がFlickrを始めて一年くらいたったころ、それまで誰からも見向きもされなかった写真の投稿に”fave”とコメントをしてくださったご婦人がいました。その時は物好きな人もいるものだと、「ありがとう。」と無造作に返信だけはしたのですが、それからも僕の投稿に必ず”fave”とコメントをしてくれて、しかもその内容がいつも温かく心のこもったものだったのです。そうしているうちに、あっという間にフォロワーが数千人になりました。その時は理由も解らずに、まあそんなものなんだろうと高を括っていましたが、実はこのご婦人がローゼンベルク家の末裔で合衆国内のいわゆる貴族階級に幾多のネットワークを持つ重鎮であることを僕がFlickrを引退した後に知りました。彼女はこれから大きな冒険に旅立つと言いました。それからは投稿の頻度も減り、僕は大富豪のご婦人がいつものように世界中を気ままに豪遊してまわるものだと勝手に思い込み、その頃ちょうどFlickrと本業が両立できなくなったタイミングでもあったので、僕は自分から一方的にFlickrを引退してしまいました。2017年秋の頃でした。それから8年の歳月が流れ仕事からも解放され少し時間の余裕も出来たことから、アカウントだけは残しておいたFlickrに久しぶりにログインして旧友の投稿写真をまったりと閲覧していた時のことでした。あの後しばらくしてSmilla4が投稿した内容を見て茫然自失となってしまいました。
The Red Pouch ~ Sloooow drip
Dear Flickr friends,
You’ve been a treasured and important part of my journey in photography. I’ve learned from you and been inspired by your work for many years. I could never thank you enough. I have an aggressive form of Lymphoma and I’m fighting back hard…but am so tired. I’ll post some of my backlog when I’m able. Hopefully someday i’ll get back to commenting the way I love to do…
xo
大きな冒険とは進行性リンパ腫との闘病生活のことだったのです。「ため息をつくと寿命が縮まるよ。」と言われて久しい頃でしたが、それでも僕は毎日ため息しか出ず意気消沈し、悲しくて悲しくてもうどうしようもない深い深い悲しみで満たされていました。家族にそんな惨めな姿を見られたくなくて毎日国立国会図書館に入りびたりになっていた時に一冊の本を見つけ館内貸出をしてもらい貪るようにして読み耽った本がありました。『休息のレシピ タメイキは最高のゼイタク・HAPPYな毎日を送るための呼吸法』でした。僕は書かれている内容に没頭してしまい、涙をうかべながら「ふ~っ」とか「はあああ~~~っ」と深いため息をつくたびに、周りに座っている若い女性や中年のおじさんが「あなた大丈夫?」といった目でこちらに気遣いをしてくれるのですが、そんなことにはお構いなしに最後まで読破した本でした。今日に至るまで、何度この本に救われたか知れません。
October 15, 2019 に撮影された写真がSmilla4の最後の投稿となりました。